江戸褄(えどづま)模様の黒留袖

母が21歳の結婚式の時に着た江戸褄(えどづま)模様の黒留袖。

たった一度袖を通したきり大事にしまってあることを私たちが知ったのは昨年、私が着物リメイクを仕事にしたいと母に伝えた時でした。

このまま二度と袖を通す機会がないことがわかっていても、祖父と父が二人で用意してくれた思い出を大切にしたい…という思いからか特別な想いがあったことが伝わってきて、この着物は母にとって自分の人生の象徴みたいな存在なのでは…と直感しました。

結婚式以来、誰にも見せることがなかった花嫁衣装がドレスに生まれ変わることを母が承諾してくれたことをきっかけに、さまざまなイマジネーションが広がりました。

古い着物でしたが、若い花嫁にふさわしいシックな色合いと希望を感じるような江戸褄模様。

黒留袖は着物の中で最も格が高い第一礼装と言われているものです。

花嫁衣装らしくお花は刺繍も施され、手に馴染むピュアなシルクの質感にも心が躍りました。

黒留袖の内側に合わせた赤い長襦袢はエネルギーを感じるような色。目の覚めるような赤は世界的に魔除けとして古くから赤が使われていたそう。

花嫁衣装の長襦袢も赤い色で魔除けの役割をして守られていたのですね。

上質な光沢と滑らかなシルクの肌触りにさまざまなイメージが湧き、心が高揚するようなドレスを作ろう、そう決意しました。

上半身のシルクは、あえて黒の無地部分だけを使用し、透明感と立体的な動きをつけながら二の腕カバーができるケープのデザインに。

赤い長襦袢の全ての部分を有効に使い、着物リメイクとは思えないフレア分量をたっぷり入れたスカートに仕上げました。

ケープの縁取りのシルクは洗い張りの職人さんがこちらも良かったら…と普段は洗わない長襦袢の裏地部分をあえて洗い張りしてくださったもの。

まるでケープのデザインが始めからわかっていたような薄いシルクを用意してくださり完成に至った奇跡のデザインです(本当に)

スカートのシルクでは縁取りには重すぎますし、そもそもスカートに全ての布を使ったので生地が足りない状態でしたから、この縁取りのデザインが叶ったのは偶然としか言いようがありません。

着物の素材にドレスの素材をプラスして、立体的に構築したドレスは、これが古い時代の花嫁衣装だったことが想像できない新しい風を感じる仕上がりに。

母が嫁ぐ時に抱いた新しい人生の夢と希望を、スタイリッシュなデザインにし、お袖を通した時に心躍るようなドレスにしたいという夢が叶ったのも本当にたくさんの方々そして職人さんのお力のおかげです。

日本の色の美しさが洗い張りの技術でよみがえり、長い時が経っても色褪せない美しさの原点を見たような気がします。

長襦袢の色鮮やかさに対して、表地の着物の柄に控えめな赤を選ぶところにも日本人らしい奥ゆかしい美意識を感じました。

柄の部分は別のドレスに使いました。次回に続きます。