弟のモッズコートに仕立てた父のお気に入りだった着物。
父が祖父から譲り受け大切にしていたものです。
着物の生地は、洗い張りの職人さんに美しく仕上げていただきましたが、裏地になる八掛と胴裏部分が一般的には使うことがなく処分されるものだったらしく、そのまま返却されました。
そのなす紺色の美しい色合いと天然染料の優しい肌触りがあまりにも素晴らしく「この布でおしゃれなメンズシャツに仕立てたい」というアイディアが湧きました。
そこで、お湯洗いしたところ染料が溶け出しかなりの色落ちがありましたが、根気強くお湯が透明になるまで数十回すすぎを繰り返しました。
仕上がったシャツを着用したのは実家に住む甥。弟の長男です。
今年社会人一年目の甥ですが、私の父とは幼い頃に本気で沢山遊んだり眠ってくれたりして、父が亡くなる少し前まで私たち家族を笑わせたり、いつまでも無邪気な気持ちを忘れずに過ごすことが出来たのは、甥や姪たち孫の存在のおかげだと感じています。
やはり祖父や父の影響か、着るものにこだわりを持つ甥ですが、およそ100年前の布で作ったシャツの風合いや色、着心地を「とても気に入ったよ」と言ってくれて嬉しく思いました。
これからの人生は色々と迷うことや悩むこともあるかも知れないけれど、父や祖父、その前のご先祖さまたちは「自分らしく進めばいいよ」と心から言ってくれているような気がしています。
おりしも、今日は青森の実家で祖父の50回忌の法要を行いました。
いつもお願いしているお寺のお坊さんの代わりにたまたまいらして下さった方が、心に残るお話をして下さったのですが、なかでも
「亡くなった人間の骨を、食べ終わったケンタッキーフライドチキンの骨と違って大切にすることは、思いを大切にするという人間だけにできる心の豊かさだと思うんです…」
などとお話しして下さったことが、私たちの行なっている着物リメイクの理念にも通じるものを感じて涙が止まらなくなってしまいました。
祖父の50回忌を家族皆で迎えられたこと、素晴らしいお話を聞けたことが、ただの偶然ではないような気がして忘れられない一日になりました。