母が一度だけ袖を通したという付け下げの着物。
心が明るくなるような白いお花柄と淡いブルーグリーンと水色のシルク地です。
差し色に入ったピンクが優しさを感じさせる模様と限りなく白に近い淡い色から花嫁を連想しました。
一度しか着ていないと言っても、かなり長い間お手入れもしないまま仕舞われていた着物です。
全体的には綺麗に見えましたが、数箇所にカビのような汚れが…(洗い張り・加工前)
洗い張りの職人さんと繋いでくださったSさんが「大丈夫です!綺麗になりますよ」とおっしゃってくださった通り、新品同様の反物になって仕上げてくださいました。
茶色い汚れも綺麗になっているし全体的にトーンが明るくなり、素材の可憐さが増しました。(洗い張り・仕上がり後)
漠然と「花嫁のようなデザインのドレスにしよう」とは決まっていたものの、洗い張りで生まれ変わった素材の顔を見てから「ここはこうしよう、ああしよう」とイメージが湧きます。
やはり着る人と素材があってこそイマジネーションが働き出すからです。
淡い色の付け下げにフランスレースを重ねる場合も、花模様の柄部分は着物の素材そのものが生きるように、無地の部分にレースを重ねるデザインに。
デザインのディティールにもこだわって眠っていた大切な着物を、気分が上がるドレスにしています。
母の付け下げドレスを着た姉は、20代前半から30代初めを迎えるまで子育てと祖母の介護を数年に渡りやり遂げました。現在のように自宅介護にプロの手を借りたりすることもなかった時代のため、私が想像が及ばない苦労も多かったかと思います。
おばあちゃんっ子だった私は上京していて祖母のことは姉任せだったため、幼い姪たちにミシンが壊れるくらいの勢いで、姪たちの洋服を縫って送ることしかできませんでした。
愚痴もこぼさずにおばあちゃんを大切にしてくれ、祖母が亡くなった時は誰よりも泣いてた姉。年齢を重ねてもその変わらない優しさと素直さを花嫁のようなドレスで表現したいという思いがありました。
家族の繋がりや想いをテーマにした着物リメイクを行なっています。