姉が幼い頃に着ていた普段着の着物と羽織り。
寒い冬のために羽織りは綿入りで、肌襦袢は柄の入ったコットンのネル生地です。
よそ行きではなく普段着ということもあり、姉にとっては幼少期の空気まで鮮明に思い出すような懐かしい着物。
そのキラキラした思い出を、あえて今の年齢の姉が着られる洋服にリメイクするチャレンジをしました。
子供の頃の思い出の詰まった着物は、たくさんの食べこぼしのシミがあり洗い張りの加工に出すのも申し訳なく、丁寧にほどいてアトリエで洗いにかけることに。水が透明になるまで洗いとすすぎを繰り返しました。
「さすがにこのままの色では可愛すぎて着られないから、コーヒー染めとかで落ち着いた色にしてもらいたい」
という姉からのリクエストで、コーヒー染めを試みるも薄い黄色にはなるもののシックな色味には染まらず、粉状の染料を深みの出るように幾つもの色をブレンドして染めました。
右端の黄色が際立っている小さな生地がコーヒー染めしたもの。
こちらの写真は、姉がお嫁入りした時に用意した礼服の内側の長襦袢。一度も袖を通すことがないまま眠っていたものですが、なめらかなシルクの肌触りは最高の品質でした。
↓↓こちらは洗い張りの職人さんによる仕上げで新品同様の反物になりました。
打ち出の小槌の模様は、一生お金に困らないように…という娘の将来を思う両親の思いを感じました。
雪国でも寒くないように暖かい生地の襦袢に、綿入りの羽織りの着物を見た時に、守られている安心感や目に見えない愛を形にしたい、そう決めました。
女の子らしい明るい色や模様の入った着物を着た時の嬉しさや、両親や祖父母に守られて愛されていた記憶がこれからの人生も姉を守ってくれるように願いを込めてデザインしたブラウスとスカートです。
淡い色の打ち出の小槌模様のブラウスは、豊かさを表すようなギャザーたっぷりのデザインに。
フリルが子供っぽくならないよう肩を落とすオフショルダーでエレガントに。
袖も内側に小さなタックをいくつも入れて、柔らかく優しい表情が出るようにしました。
スカートはあえて黒の無地をベースにして、思い出の着物地はアクセントとして部分使いにしました。
子供の頃の遠い記憶も、今を生きる私たちの世界と並行して繋がっている様子をスカートのデザインに込めました。
ひらひら舞う蝶々のような柔らかさと優しさをイメージしたブラウス。
振り返った思い出が優しさと安心感そして希望を与えてくれる、そんな着物リメイクを目指しています。
着物リメイクの撮影では写真家の松井 宏一郎氏、ヘアメイク・土山 悦さんの多大なお力をお借りし、想いを形にできました。
イヤリング制作はMiyuki Abeさんに華を添えていただきました。
いつも大変お世話になっているSさん、洗い張りの職人Yさん、腕の確かな職人AZさん、皆さんの技術と真心に支えられていることに改めて感謝しています。