受け継がれたご家族の愛を形に・音楽家のA様

A様の七五三のお祝いにお祖父様がご用意されたお着物の反物。

当時、弟さんをご出産予定のあったお母様が、お忙しさのためお着物に仕立てられずに、いつかこの反物をA様の着られるものとして形にされたい…という願いを、ずっとお持ちになられていらしたそうです。

ドレスのお直しがご縁でアトリエを訪ねてくださったA様。

「秋のピアノコンサートまでに仕上がりますか」とご相談いただき、染色してくださる着物屋さんを探しました。

染色だけで3ヶ月はかかると言われて、ほぼ諦めかけていた際に、お世話になっている堺さんから「こういうキーワードを入れて探してみてはどうですか」と教えていただき、偶然見つけた着物屋さんとの出会いから、A様の思いを形にする第一歩を進めることが出来ました。

真夏の暑い日に駅までお迎えくださった着物屋さんは、何から何までご親切で快く引き受けてくださり、こちらが急いでいることをお伝えしたところ納期よりも早く仕上げてくださり、A様のご希望通りの色に染め上げてくださいました。

ものづくりは、たくさんの方の優しさやご親切が込められたお仕事で初めて成り立つと感じ、今までのご縁や出会いに改めて感謝しました。

少し黄色みがかったピンク色の和名は、「トキ色」白い朱鷺の羽の内側の色のような淡い桃色からそう呼ばれていたそうです。

名前の響きも美しく、女性らしい色に染め上がった反物をご覧になられたA様は「まるで(今まで眠っていた)着物地が、こちらに伺ってドレスをお願いするのを待っていたかのようです。反物が喜んでいるように感じます!!」とおっしゃってくださいました。

平な布を立体的なドレスに仕上げるまでの道のりは、長いものではありますが、お客様とご相談しながらベストなシルエットやラインを決めていく仮縫い作業は、直接お客様の喜びを感じられる嬉しい作業です。

ボディに直接布を当てて裁断して構築したものを、一旦紙に写して線の流れや細かい寸法を整え、パターンを作ります。

仕上がったパターン(型紙)を元に、仮縫い用の木綿の布で裁断し、チャコペーパーで印をつけて、仮縫い修正しやすいように見やすく整えていきます。

実際の着物は36cmほどの小幅になりますが、一旦仮縫いではシルエット重視で、広い幅の布のまま流れを決めて、パターン完成後に小幅用の分割したパターンを改めて作っていきます。

仮縫いでは、ステージ上での演奏をイメージなさりながらラインやカットをご決定くださったA様。

ネックラインは、A様のご希望から生まれたオリジナルのとても美しいカットに決まりました。

刺繍を学んでいらっしゃるA様は、手仕事にとても興味をお持ちでいらして、ドレスとお揃いのフランス式コサージュのご注文もいただきました。

ドレス制作と並行して、担当の職人がコサージュ作りも行いました。

ワイヤーを巻く紙テープやお花の内側の花弁も布の色に合わせて染めました。

地模様の入った布は、コテを当てるとシルクの輝きが増して、今まで見たことのない透明感のある花びらや葉っぱに仕上がりました。

仕上がったドレスとコサージュはこちらです。

肩を優しく覆ったフレンチスリーブと控えめなVネックのシャープなカットが、女性らしさの中にも凛とした表情に見えるドレスになりました。

ピアノ演奏の際には、横からのシルエットが大事になるということをA様より教わりました。

「横からのラインがとても綺麗で嬉しいです!!」とフィッティングでおっしゃって下さったことが忘れられません。

後ろ姿には、小さなくるみボタンが並び、A様のリクエストのコサージュも舞台映えの演出にもぴったりでした。

お祖父様が選ばれた着物地は、しっかりとした厚みのある豪華なシルクでしたから、布地にふさわしいガーデニア(クチナシの花)に仕上げました。

和の柄と、フランスコサージュの融合がここまで違和感なく溶け込むことを、A様からのご依頼で初めて経験させていただきました。

10月19日にピアノコンサートを終えて、舞台でのお写真を送ってくださったA様。

連弾されたお友達とのドレスの相性も抜群で、演奏後のお写真のお二人の美しさにうっとりと拝見させていただきました。

フィッティングの際にいただいたメッセージには
「みどりさんとの奇跡のような出会いを心をから嬉しく思い、感謝しております」と書いてくださって心の底から力が湧くのを感じました。

お引き取りの際の帰り際、「これからも頑張ってください」と両手で手を握ってくださった嬉しさを私は一生忘れることが出来ないと思います。

A様の大切なご家族様の思いが込められた反物をドレスに仕立てるお手伝いをさせていただき、本当にありがとうございました。


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